フランツ・カフカ「田舎医者」は、カフカの見た悪夢なのだろうか。
- 海外文学
掲載日: 2023年04月20日
「田舎医者」は、1918年に発表された短編小説。
生前に発表された数少ない作品の一つです。
患者の往診に行きたいが、馬がなくて行けない医者が遭遇する奇妙な出来事を描いています。
何の脈絡もなく次々に起こる出来事は、まさに夢の中の出来事。
夏目漱石の「夢十夜」を彷彿とさせる不条理な小説です。
「田舎医者」のあらすじ
医者である「私」は困り果てていた。
なぜなら、重病の患者の往診に行かなければならないのだが馬がいないのだ。
女中が村中聞いて回ったが誰も貸してはくれない。
と、そこへ見慣れぬ男がやって来た。馬を二頭、用立てるという。
男はそう言いながら、女中を抱きすくめている。悲鳴を上げる女中。
女中が心配だが、私は患者のところへ向かう。
患者はやせっぽちの少年。
少年は小声で言う。「ボクを死なせてください」と。
診察するが、いたって健康であることが解る。
残してきた女中が気がかりで仕方がないが、少年の家族は帰してくれない。
医者は唐突に気が付く。
少年の脇腹に、手のひらほどの傷口が口を開けていることに。
少年は泣きじゃくりながら言う。「ボクを助けてくれますね」と。
不条理な物語がなおも続くのです・・・。
なぜカフカは「田舎医者」を書いたのか。
「田舎医者」は、さまざまな出来事が脈略もなく医者の身に起こっていく物語ゆえ、さまざまな解釈がなされています。
カフカの解説もないため、何が描かれているのかの正解もありません。
1917年「田舎医者」を執筆した頃、カフカは、肺結核を発症しています。
当時としては、現在の癌のように致死率の高い病気です。
仕事を辞めるわけにはいかないカフカにとっては、大変な衝撃だったのではないでしょう。
その反面、静養のため長期休暇を取り読書や執筆に多くの時間を割くことができ
「自分の人生で最もやすらぎに満ちていた時」というくらい充実していたようです。
カフカは病を克服して、執筆活動を続けていきたいと切望していたことでしょう。
絶望の中にあって死にたい気持ちと、病を克服して生きたい気持ち。
それが少年の姿と重なります。
そして、赤の他人である医者に頼らざるを得ない心境が、医者の行動にもよく表れているように思えます。