谷崎潤一郎「蓼食う虫」は関西の伝統文化を愛でる風流人のスケッチが白眉です。
- 日本文学
掲載日: 2023年03月03日
「蓼食う虫」は、1928年(昭和3年)から、約一年間に渡って「大阪毎日新聞」と「東京日日新聞」に連載された長編小説。
お話の骨子は、恋人のもとへ足しげく通う妻を持つ夫を中心にして、離婚を決意した夫婦の心情が描かれています。
二番目の妻を、知人に譲った谷崎潤一郎自身の体験が基になった作品です。
そう思って読むと、とても生々しい(;^_^A
それ故に、主人公夫妻(谷崎夫妻)のエピソードは
ちょっと鬱々としたものがあって読んでいて居心地が悪いのです。
が、それに対して
妻の父親が出てくるエピソードは、がぜん風流になります。
昭和初期の人形浄瑠璃の公演の描写がとても興味深い。
劇場の近くにある「芝居茶屋」で食事をし、そこから仲居に案内されて劇場に行くなんて
今では考えられない風流なシステムです。
人形浄瑠璃を観るにしても、桟敷で蒔絵のお重に入れてきた手作りのつまみを肴にお酒を飲むのです。
「おひとつどうどす?」とお酌をするのは、お妾の「お久」
すばらしい・・・。
関西に移住した谷崎潤一郎が、伝統文化に魅せられていったことが、うかがい知れます。
恋人のもとへ足しげく通う妻を持つ夫。
けなげだなぁと、思いきや。
彼は彼で、見目麗しき馴染みの西洋婦人のいる娼館へ通っていたなんて・・・(;^_^A
妻は、恋人を。
亭主は、娼婦を。
そして、義理のお父上は、お妾さんを。
なかなか複雑です(;^_^A