芥川龍之介「往生絵巻」は、まさに「絵巻物」として読むといいかも。
- 日本文学
掲載日: 2022年10月16日
「往生絵巻」は、大正10年に文芸誌「国粋」に掲載された戯曲。
「今昔物語」の巻十九「讃岐国多度郡五位聞法即出家語第十四」を翻案したものです。
念仏を大声で唱える法師、五位の入道が、西へ向かって歩いている。
それを人々がはやし立てるところから物語が始まります。
「往生絵巻」(青空文庫)
童:やあ、あそこへ妙な法師が来た。みんな見ろ。みんな見ろ。
鮓売の女: ほんたうに妙な法師ぢやないか? あんなに金鼓をたたきながら、何だか大声に喚いてゐる。……
薪売の翁: わしは耳が遠いせゐか、何を喚くのやら、さつぱりわからぬ。もしもし、あれは何と云うて居りますな?
箔打の男: あれは「阿弥陀仏よや。おおい。おおい」と云つてゐるのさ。
「阿弥陀仏よや。おおい。おおい。」大声で唱える法師。
そして、「童」に始まり
「鮓売(すしうり)の女」
「薪売(まきうり)の翁(おきな)」
「箔打(はくうち)の男」
果ては、「犬」や「鴉」などなどなど。
次から次へと、様々な人々が現れていきます。
まさに絵巻物を見ているかのようです。
そう、この物語は、絵巻物を見ているつもりで読んでいけばいいのです。
さて、人々の話を聞いているうちに、五位の入道の素性が徐々に明らかになってきます。
以前は、平気で人を殺めるような悪人でしたが、ある日説法を聞いているうちに出家をしたというのです。
実は、そのあたりの話は、原作の「今昔物語」には、詳しく描かれているのですが、芥川龍之介はバッサリ省いています。
絵巻物として、描きにくかったのでしょうか。
ずんずんと西を目指す五位の入道の運命や如何に。