国木田独歩自身を描いているかのような、国木田独歩「忘れえぬ人々」
- 日本文学
掲載日: 2022年10月09日
「忘れえぬ人々」は、1898年(明治31)に雑誌「国民之友」に掲載された小説。市井の人々の人生をあるがままに描く自然主義。
国木田独歩が作家活動を始めた、ごく初期の頃の作品です。
この頃、国木田独歩は、大分県の佐伯市から東京に戻っています。
舞台はというと、
「多摩川の二子の渡しをわたって少しばかり行くと溝口という宿場がある。
その中ほどに亀屋という旅人宿がある」
宿で、隣同士の部屋になった縁で言葉を交わす無名の文学者と、無名の画家。
文学者の持参した原稿には
これまで出会った「忘れえぬ人々」が描かれている。
これを、文学者が、語っていくのです。
では、「忘れえぬ人々」とは、どういう人かというと、
文学者曰く、
「親とか子とか、または朋友知己そのほか自分の世話になった教師先輩のごときは、つまり単に忘れ得ぬ人とのみはいえない。
忘れてかなうまじき人といわなければならない、
そこでここに恩愛の契りもなければ義理もない、ほんの赤の他人であって、
本来をいうと忘れてしまったところで人情をも義理をも欠かないで、
しかもついに忘れてしまうことのできない人がある」
つまり、覚えていなくてもいい赤の他人の中には
ついつい忘れることができないような人がいる、というわけです。
これは、まさに独歩が他の作品で描いている人々そのもののようです。
この物語の文学者とは、国木田独歩自身なのでしょうか。