芥川龍之介の「竜」は、実に凝った作りの作品です。
- 日本文学
掲載日: 2022年04月04日
冒頭、1行目から、え・・・と思わせる。
こんな風に始まります。
宇治の大納言隆国
「やれ、やれ、昼寝の夢が覚めて見れば、今日はまた一段と暑いようじゃ」
「何、往来のものどもが集った? ではそちらへ参ると致そう」
「やあ、皆のもの、予が隆国じゃ。
往来のその方どもに、今は昔の物語を一つずつ聞かせて貰うて、
それを双紙に編みなそうと思う」
これは何かというと
今昔物語がどのように編まれているか
つまり、
芥川龍之介自らの王朝物の作品の原典の成り立ちを描いているのです。
で、
ひとりの翁がこんな話を始めます。
「奈良に蔵人得業恵印と申しまして、
途方もなく鼻の大きい法師が一人居りました」
ボクは、思いました。
なるほど、これは、かの有名な「鼻」のことだな、とピンときたのです。
これは、面白い作りになっている、と思いつつ読み進めていくと
こんな展開が待っています。
大鼻の法師が、ある夜の事、弟子もつれずにただ一人
そっと猿沢の池のほとりへ参りまして、
采女柳の前の堤へ、
『三月三日この池より竜昇らんずるなり』と筆太に書いた建札を、
高々と一本打ちました。
・・・あらら、全く違う話の様だ(;^_^A
そこには、聞いたこともなかった不可思議なお話が描かれています。
そのお話も至極、興味を引くのですが
ここでは省略(;^_^A
作品はこんな風に終わります。
宇治大納言隆国
「なるほどこれは面妖な話じゃ。
その方どもの話をさらに聞かせてくれい。
次は行脚の法師の番じゃな。
何、その方の物語は、池の尾禅智内供とか申す鼻の長い法師の事じゃ?
これはまた鼻蔵の後だけに、一段と面白かろう。では早速話してくれい。」
次の話が、禅智内供の話、
つまり、皆さんご存じの「鼻」の話となるわけです。
実に面白い仕掛けですねぇ。