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朗読コンテンツ08-夏目漱石「夢十夜」-第二夜(悟りを開く侍の話)には、漱石の苦悶が描かれている。

朗読コンテンツ08-夏目漱石「夢十夜」-第二夜(悟りを開く侍の話)には、漱石の苦悶が描かれている。

掲載日: 2022年11月23日

「夢十夜」とは。

「夢十夜」は、1908年(明治41年)に『朝日新聞』に連載された連作短編小説。
10話からなる、不思議な「夢」を語る幻想的な作品です。
朗読にピッタリの長さの作品です(;^_^A

作家の人生をありのままに描く「自然主義文学」とは異なり、リアルな「作り物」を旨としている漱石らしく、実に不思議なお話。
そして、ただの空々しい幻想的な物語ではなく、生き生きとしたリアリズムにあふれています。
今回お届けする朗読は、夏目漱石「夢十夜」の第二夜です。

「夢十夜 第二夜」を解説します。

「第二夜」は、悟りを開こうと苦悶する侍の物語です。
無の境地を掴もうとするひとりの侍。
が、和尚は突き放すように言います。
お前は侍である。侍なら悟れぬはずはなかろう。
そういつまでも悟れぬところをもって見ると、御前は侍ではあるまい。人間の屑じゃ

とまで言うのです。

この話を最後まで読んで、どのようなイメージが残ったでしょうか?
苛立ち」や「焦り」などの焦燥感ではないでしょうか。

文章の中には、そうした気持ちをさらに書き立てるかのように不穏な単語が散りばめられています。
前述の「人間の屑じゃ」もまさにそう。

そういわれた侍はこんな風に思います。

隣の広間の床に据えてある置時計が次の刻を打つまでには、きっと悟って見せる。悟った上で、今夜また入室する。そうして和尚の首と悟りと引替えにしてやる。悟らなければ、和尚の命が取れない。どうしても悟らなければならない。自分は侍である。
もし悟れなければ自刃する。侍が辱しめられて、生きている訳には行かない。

「夢十夜」(青空文庫)

不穏な空気に満ち満ちています。
第一夜に溢れていた「愛」は、ここには微塵もありません。

侍は座布団の下に手を入れます。
そこにあるものは・・・、

こう考えた時、自分の手はまた思わず布団の下へ這入った。そうして朱鞘の短刀を引ひき摺り出した。ぐっと束を握って、赤い鞘を向へ払ったら、冷たい刃が一度に暗い部屋で光った。凄いものが手元から、すうすうと逃げて行くように思われる。そうして、ことごとく切先へ集まって、殺気を一点に籠めている。自分はこの鋭い刃が、無念にも針の頭のように縮められて、九寸五分の先へ来てやむをえず尖ってるのを見て、たちまちぐさりとやりたくなった。身体の血が右の手首の方へ流れて来て、握っている束がにちゃにちゃする。唇がふるえた

「夢十夜」(青空文庫)

不穏な単語で満ち溢れています。

どうして、漱石はこんな物語を書いたのでしょう。
漱石は、常にイラついていた人。
常態的に強迫観念に駆られていました。
大学を卒業した後、英語教師になりますが、強迫観念は募るばかり。
イラつくあまり、生徒に当たり散らしていたほどです。

救いを求めて、鎌倉の円覚寺にて、座禅を組むなどもしています。
イギリス留学中は、お金がないが故、生活がままならず
神経衰弱を患うに至ります。そういったことを踏まえて第二夜を読むと、漱石の言わんとすることが解ってきます。

さて、「無」の境地を得ようとして座禅を組む侍はこんな風になっていきます。

奥歯をぎりぎりと噛んだ。両腋から汗が出る。背中が棒のようになった。膝の接目が急に痛くなった。膝が折れたってどうあるものかと思った。けれども痛い。苦しい。無はなかなか出て来ない。出て来ると思うとすぐ痛くなる。腹が立つ。無念になる。非常に口惜しくなる。涙がほろほろ出る。ひと思いに身を巨巌(おおいわ)の上にぶつけて、骨も肉もめちゃめちゃに砕いてしまいたくなる。

「夢十夜」(青空文庫)

身の置き所のない漱石の心情が、実によく表れています。
そんな状況になっても侍はさらに耐えていきます。

それでも我慢してじっと坐っていた。堪えがたいほど切ないものを胸にいれて忍んでいた。その切ないものが身体中の筋肉を下から持上げて、毛穴から外へ吹き出よう吹き出ようと焦るけれども、どこも一面に塞がって、まるで出口がないような残刻極まる状態であった。

「夢十夜」(青空文庫)

どうやら極限まで来たようです。その結果どうなったかというと・・・。

そのうちに頭が変になった。行灯も蕪村の画も、畳も、違棚(ちがいだな)も有って無いような、無くって有るように見えた。と云って無はちっとも現前しない。ただ好加減(いいかげん)に坐っていたようである。

「夢十夜」(青空文庫)

侍は、「無」の境地を得ることができたのです。
が、しかし、そのことに気が付いていません。
そして、・・・。

ところへ忽然隣座敷の時計がチーンと鳴り始めた。
はっと思った。右の手をすぐ短刀にかけた。時計が二つ目をチーンと打った。

「夢十夜」(青空文庫)

侍は、次の刻を打つまでに悟ることができれば、和尚の首を取るつもりです。
そして、悟れなければ腹を切る。
さて、短刀に手をかけた侍は、どちらの道を取るのでしょうか。
そして、何かを促すかのように時計が二つ目を打つのです。

ボクには、漱石の心の叫びが聞こえてくるような気がします。
芸術は、砕け落ちた自分の心を、拾い集めて
それを紡ぎ合わせて作り上げるもの
」とは、よく言ったものです。。

そんな鬼気迫る物語を朗読と映像で表現してみました。

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