太宰治「清貧譚」で、アナタは贅沢な時間を過ごせるのです。
- 日本文学
掲載日: 2022年12月30日
「清貧譚」は、文芸雑誌「新潮」に1941年に掲載された短編。
この作品は、中国の清の時代に書かれた怪異譚集「聊斎志異」の中の一編を基にして太宰治の創作を加えて作られたもの。
冒頭、太宰はこんな風に記載しています。
「原文は、四百字詰の原稿用紙に書き写しても、わづかに四枚半くらゐの、極く短い小片に過ぎないのであるが、読んでゐるうちに様々の空想が湧いて出て、優に三十枚前後の好短篇を読了した時と同じくらゐの満酌の感を覚えるのである。私は、この四枚半の小片にまつはる私の様々の空想を、そのまま書いてみたいのである」
文豪が、思う存分創作を加えるというのですから、もうこれ以上の贅沢はないですね。
舞台を、中国から日本の江戸時代に移して、こんな風に始まります。
「むかし江戸、向島あたりに馬山才之助といふ、つまらない名前の男が住んでゐた。
ひどく貧乏である。三十二歳、独身である。
菊の花が好きであつた。佳い菊の苗が、どこかに在ると聞けば、どのやうな無理算段をしても、必ず之を買ひ求めた。
千里をはばからず、と記されてあるから相当のものである事がわかる。」
そんな主人公は、旅の途中で不思議な出会いをします。
「ぱかぱかと背後に馬蹄の音が聞えた。その馬蹄の音が、いつまでも自分と同じ間隔を保つたままで、それ以上ちかく迫るでもなし、また遠のきもせず、変らずぱかぱか附いて来る。」
「小田原を過ぎ二里行き、三里行き、四里行つても、相変らず同じ間隔で、ぱかぱかと馬蹄の音が附いて来る。才之助も、はじめて少し変だと気が附いて、振りかへつて見ると、美しい少年が奇妙に痩せた馬に乗り、自分から十間と離れてゐないところを歩いてゐる。」
会話を交わすうちに、お互い菊に心得があることが解ってくる。
そして、姉と二人きりで江戸へ出るところだと言う。
身寄りのない二人を憐れんでか、
「そんな事なら、なほさら私の家へ来てもらはなくちやいかん。
くよくよし給ふな。私だつて、ひどく貧乏だが、君たちを世話する事ぐらゐは出来るつもりです」
斯くして、旅の途中で出会った姉弟との交流が始まります。
菊作りの巧みな青年は、菊を売ることで富を蓄えていきます。
一方清貧を旨とする才之助は、それを横目で見ながら
やせ我慢を続けるのですが・・・。
と言うなかなか巧妙に作られたお話。
解釈がどうのこうのとか、難しく考えずに
面白いストーリー展開自体を楽しもうではありませんか。
太宰が、我々に中国の文語体で書かれた難しい物語を優しく読み聞かせてくれているという贅沢な時間を味わえます。
太宰治の読書会を行っています。
太宰治の作品を語るオンライン読書会を、定期的に開催しています。
ご都合の良いイベントにお気軽にお越しください。