JDサリンジャー「若者たち」は、若者たちの悲しい虚栄をスケッチした作品です。
- 海外文学
掲載日: 2023年07月14日
「若者達(The Young Folks)」は、1940年に文芸雑誌「ストーリー」に掲載された短編小説。
サリンジャーが、初めて世に送り出した作品です。
大学生の若者が、友人を招いて自宅で催したパーティでの、チョットしたみじめな出会いを描いています。
若者の生き様を、大人の目線からではなく若者自身の目線で描き出す、サリンジャーの終生のテーマの原典です。
「若者たち」は、こんな作品です。
女子大生のルシル・ヘンダーソンは、自宅に友人たちを招きパーティを開催しています。
ずっと一人っきりでいる女の友人エドナ・フィリップに目が留まります。
エドナはパーティが始まった8時からずっと椅子に座ったきり、男の子は誰も興味を示す様子はないのです。
これは、とても残酷な状況です。
ルシル・ヘンダーソンは、男の友人ウィリアム・ジェイソンを紹介しようと思いつきます。
ただ、ウィリアム・ジェイムソンは、いつも爪を噛んでいるような男の子。
そして、エドナ・フィリップより、背も低いのです。
つまり、かなりさえない男の子、です。
ふたりっきりで話を始めるエドナとジェイムソン。
話が弾みません。
ジェイムソンは「帰らないといけない。月曜までの出す課題があるんだ」と、言い出す始末。
おまけに、周りがうるさくて聞き取れないのか、
ジェイムソンは、ことあるごとに「え、なに?」と聞き返します。
読んでいて、なんだかすごく、いたたまれない気持ちになっていきます。
もう、話を聞きたくない、興味がないというのが、リアルに伝わります。
「もう帰らないといけないんだ。月曜までの出す課題があるから」と、言い残し立ち去るジェイムソン。
さっきまで座っていた椅子に戻り、ひとりでタバコを吸うエレナ。
こんなリアルな若者の姿を描き出すサリンジャー。
当時の若者が共感を覚えたのも、うなずけます。
彼の才能を見出したのが、文芸雑誌「ストーリー」の主催者であり、名門大学のコロンビア大学でサリンジャーに指導をしていたホイット・バーネット教授です。