泉鏡花「天守物語」その4-耽美の極み。グロテスクさの極みです。
- 日本文学
掲載日: 2021年08月30日
ここからは
ボクが、これまで読んだ小説の中でも5本の指に入るグロテスクさです。
金色の眼、白銀の牙、色は藍のごとき獅子頭。
その、獅子頭を見て亀姫が言う。
「おうらやましい。旦那様が、おいで遊ばす」
これは、獅子頭を男に見立てた戯言。
富姫は言う。
「嘘が真に。……お互に……。こんな男が欲しいねえ」
戯言が本当になったらいいねぇ、と言ってるのでしょうか。
舌長姥が獅子頭に見とれていることに気が付いた朱の盤。
曰く
「や、姥殿、獅子のお頭に見惚れまい。
見惚れるに仔細はないが、姥殿はそこに居て舌が届く」
舌長姥思わず正面にその口を蔽おおう。
侍女等忍びやかに皆笑う。
舌長姥の舌は、とても長く伸びて、人間の肉を舐めとって溶かしてしまうのです(;^_^A
恐ろしい顔をしているが
朱の盤は、とてもユーモアがあるのですねぇ(;^_^A
姫路城に秘蔵してある兜。
亀姫に持たせようと思っていたのですが
かび臭いのです。
「蘭麝の薫も何にもしません。
大阪城の落ちた時の、木村長門守のようなのだと可いけれど」
首実験で家康の前に献上されたとき
木村長門守の首の頭髪に香が焚きこめてあったことを言っています。
つくづく深い知識に裏打ちされた物語です。
亀姫が持参した猪苗代亀ヶ城の主、武田衛門之介の首。
この首を巡ってのエピソードが、なかなかにすごいのです。
ここに書くのも憚られるほどですので、
ぜひ、実際に読んでそのすさまじさを味わってください。
さて、亀姫は、持参した生首の咽喉に針があることに気が付く。
富姫は言う。
「いま、それをお抜きだと蘇返ってしまいましょう」
それを聞いた朱の盤が言う。
「いかさまな」
言わんとするのは「如何にも、左様でございます」という意味で
現在の意味の「ペテン」の類ではございません(;^_^A
さぁ、ここから先は、先ほどまでの壮絶なエピソードを中和するかの如く
ユーモラスな話が始まります。
富姫は、手持無沙汰であろう朱の盤に、こう言い渡す。
「御先達、お山伏は女たちとここで一献お汲みがよい」
それを聞いた朱の盤、曰く
「吉祥天女、御功徳でござる」
天女の皆様、善行を積んでください、みたいなことを言います(;^_^A
やはり粋でユーモアがある妖怪ですねぇ.
朱の盤と侍女らが談笑をしています。
侍女の一人、桔梗が言います。
「お先達、さあさあ、お寛くつろぎなさいまし」
時折出てくる、この「先達」は、「先に達した」と字のごとく
山伏などの行者を、ちょっとほめそやして指すようです。
「お師匠」みたいな感じでしょうか(;^_^A
請われて 朱の盤が戯言を始めます。
「山伏と言っぱ山伏なり
兜巾ときんと云っぱ兜巾なり
お腰元と言っぱ美人なり
恋路と言っぱ闇夜やみよなり」
山伏というものは山伏。 と当たり前のことを言い
後の段もそれに倣うという話し方。
朱の盤は、つくづく 学のある妖怪ですねぇ
朱の盤は戯言をさらに続けます。
「修行積んだるそれがしが
このいら高の数珠に掛け いでひと祈り祈るならば
などか利験のなかるべき」
「いら高」は「粒の大きな」といった感じでしょう。
「などか」は疑問を表すことから
「どうして、ご利益が無かろうか」と反語ですね。
朱の盤は戯言を続けます。
「橋の下の菖蒲は、誰が植えた菖蒲ぞ」
すると 「侍女等わざとはらはらと逃ぐ、朱の盤五人を追廻す」
なぜ 侍女らは逃げるふりをしたかというと
菖蒲の花言葉は「そなたの男らしさに私はすつかり惚れました」だからです。
鏡花の謎かけなのでしょう。