テッド・チャン著「息吹」は、読者の柔軟な思考が試される。
- 海外文学
掲載日: 2023年01月24日
映画「メッセージ」の原作、「あなたの人生の物語」が収録された第一短編集から
実に、17年ぶりに発表された第二短編集。
「息吹」は、その中の表題作です。
主人公は、解剖学の研究者。
彼は、いま、ある壁にぶつかっています。
「記憶」のメカニズムを解明すべく生きている「脳」を解剖したいのだが、
それを他者にお願いすることはできない・・・。
事故にあって、死を迎える人にだって、倫理的に許されない。
だとすると、残された方法はただ一つ。
自らの「脳」を解剖することを彼は選んだのです。
テッドチャンの著作は、感情移入が極めてしにくい作品が多いです。
なぜなら、我々が住んでいる現実の世界とは何かが違う「改変世界」での物語だから。
この作品も「改変世界」なのに物語背景の説明なしに、
いきなりエピソードが始まってしまいます。
たとえば・・・
「われわれは毎日、空になった肺を満杯にした肺と交換する。
もし交換を怠り、空気レベルが下がりすぎた場合には・・・云々」
たとえば・・・
「わたしは講義の最中、自分の腕の外郭を開き・・・云々」
読み進めるうちに段々と、何かが違う世界だとわかってきます。
どうやら、進化の方向性自体が異なっているのです。
あまりにも規格外な世界なので、
ながら読みをしていると、置いてけぼりを食らうかもしれません(;^_^A。
今少し、集中して読み続けましょう。
「息吹」の意味が判るまでは・・・。