泉鏡花「天守物語」その2-富姫登場。
- 日本文学
掲載日: 2021年08月29日
天井を貫きたる高き天守の棟に通ずるはしご。
つまり「天空」より降りたる梯子。
そこから天守夫人、富姫が登場します。
舞いすがる蝶々の三つ二つを、蓑を開いて片袖に受け
「出迎えかい、御苦労だね」
なんとも優美な登場の仕方ではないですか。
「お帰りあそばせ、お帰りあそばせ」
口々に言迎う侍女ら。
富姫は、遥かかなたにある「夜叉が池」に参っていたとのこと。
ここまでの件で、登場人物は
すべからく只ならぬ者であることが伺えます(;^_^A。
さて、目障りな鷹狩の一行を雷雨で蹴散らした富姫。
その様子を侍女に伝えます。
「粟粒を一つ二つと算えて拾う雀でも俄雨には容子が可い。
五百石、三百石、千石
一人で食むものが、その笑止さと言ったらない。」
千石の殿様と言ったって雀と同じにうろたえていましたねぇといったところでしょうか。
鷹狩の一行が大雨で右往左往し、 遠巻きに見ていた富姫にも雨がかかります。
「追手の風の横吹(よこしぶき)。
私が見ていたあたりへも ひと村雨(むらさめ)さっとかかったから、
歌も読まずに蓑をかりて来ました」
その様子を伝える言葉ひとつとっても、 もう、風流で風流で。
セリフ回しの妖艶さにゾクゾクします・・・(;^_^A