皆川博子著「空の色さえ」は、重層的な怖さが溢れてきます。
- 日本文学
掲載日: 2018年11月30日
2005年の短編集「蝶」に収められている短編小説です。
冒頭から、こわい・・・・(^_^;)
「二階にあがってはならぬと祖母に止められていた。
階段が急で危ないからというのが理由であったが・・・」
もう、何かが二階にあるとしか思えない(^_^;)
いきなり怖さ全開になる文章力のすごさよ。
とはいうものの、
この「怖さ」は戦慄してしまうような嫌な怖さではありません。
戦前の世界観と相まった、耽美で幻想的な異世界にいざなわれる怖さなのです。
そして、繰り返し挿入される詩。
「空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。
海は生垣の上に光ります、
海は貝殻のやうに光ります。
沖へ出て釣をたれたら楽しかろ。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。
微風が素早い手でもつて、
海と垣根を縫ひつける、
針を動かす光らせる。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。
「子供が港へおつこちた!」
「海へはまつて死んだとは、さて美しい死に方だ。」
然し今、誰あって、
泣かうなどとは思はない。
空の色さへ陽気です、
時は楽しい五月です。」
これは、フランスの詩人で劇作家のポオル・フォルの詩。
堀口大學の訳です。
「時は楽しい五月です。」のリフレインが、何とも言えずに不気味です。
詩と相まった重層的な怖さが溢れてきます。
初冬の夕方の寒々とした暗さが、一層寒く感じられてきました(^_^;)