アラン・シリトー「長距離走者の孤独」は、シリトーのやりきれない怒りや不審な気持ちに溢れている。
- 海外文学
掲載日: 2023年11月24日
「長距離走者の孤独」は、イギリスの小説家、アラン・シリトーが1959年に出版した短篇小説。
短篇小説集「長距離走者の孤独」に掲載されました。
アラン・シリトーは、60年代に活躍した作家であり、第二次世界大戦後に権力者たちが作り上げたひどい世の中へ異議を唱える「怒れる若者たち」と呼ばれるイギリスの作家のひとりです。
多くの作家が、オックスフォード大学を卒業したエリート層である中で、アラン・シリトーは、実際に肉体労働を経験した数少ない労働者階級の作家です。
それゆえ、体制に対しての怒りが本物であることが伺えます。
「長距離走者の孤独」を解説します。
パン屋への押し込み強盗の罪で感化院送りとなった不良少年、スミス。
感化院の院長は、スミスが長距離走者としてのスキルがあることを見つけると感化院の代表として、「全英クロスカントリー競技会」に出場させることにします。
競技会の当日、スミスは走りながら考えを巡らせます。
スミスが勝つことで、感化院の評判が上がり、院長の評判も上がる事、
そして連中は、スミスが勝つことに多額のお金をかけていること。
そんなことを考えるうちにスミスは、ある決心をするのです。
第二次世界大戦後の50年代以降には、世界中の多くの作家が反体制をテーマにした作品を世に問うています。
アメリカの作家JDサリンジャーもその一人です。
コロンビア大学で小説の技術をきちんと学んだサリンジャーが書く作品は、行間を読む必要があるため、かなり難解です。持てる技術をふんだんに詰め込んでいて、かなり読み込まないとその意味がつかめないのです。
それに比べ、独学で小説を学んだアラン・シリトーの作品は、簡潔な表現が多く、実に解りやすいです。
例えば、スミスは常日頃こんな風に考えています。
政府の戦争は俺の戦いじゃない。おれには何の関係もないことなんだ。なぜならおれの木になるのはおれ自身の戦いだけだからだ。
「長距離走者の孤独」(新潮文庫)
実に解りやすい(;^_^A
さらには、50年代にアメリカで始まった大量消費文化について、こんな記述があります。
テレビの広告はおれたちに、世の中にはおれたちが夢に見たよりどんなに多くの買いたい品が、あるかということを教えてくれた。それにテレビはそんな品を、おれたちが考えていたより二十倍もよく見せてくれた。
「長距離走者の孤独」(新潮文庫)
これまた、実に解りやすい(;^_^A
1900年代以前は、世界最大の覇者は産業革命を成し遂げた大英帝国でした。
アメリカもイギリスの文化を追い求めていました。
ところが、二度の世界大戦を経てからは、アメリカが世界最大の国家となってイギリスはアメリカ発の文化を取り入れるようになったのです。テレビなどの大量消費文化も、その一つです。
さぁ、スミスはいったいどんな決心をしたのでしょうか。
と、もったいぶってみたものの、これまた実に解りやすいことに、
スミスの考えは走り出す前から、彼の独白ですぐに判ってしまいますが(;^_^A