
森鴎外「護持院原の敵討」の、冒頭のスピード感たるや。
- 日本文学
掲載日: 2022年09月15日
「護持院原の敵討」は、大正2年(1913年)、俳句雑誌である「ホトトギス」に発表された作品です。
ある忠義深い年老いた侍が、金子の入った蔵の番をしていた際、盗みに入った賊に惨殺されます。
その仇討ちを担った親族の道行きを描いています。
森鴎外は、江戸期に記された「山本復讐記」を基に、この作品を書き上げました。
「山本復讐記」は、ある仇討ち事件を幕府の役人が記録したものです。
事の発端となる、狼藉の場面が、ものすごいスピード感で描かれています。
「はっと思ったとたんに、白紙の上に血がたらたら落ちた。背後から一刀浴せられたのである。脇差を、手探りに取ろうとする所へ、もう二の太刀を打ち卸して来る。無意識に右の手を挙げて受ける。手首がばったり切り落された」
いや、すこぶる読み易く、面白い(;^_^A
森鴎外が、この作品を描いた大正時代は、まだ封建的な考えに染まっています。
忠義を尽くすためには「死」をも恐れない、といった考えを良しとする者ばかりではなかろうと、疑問を呈した鴎外。
単純な仇討ちものではない、リアルな人間模様を描き出していきます。
