悲しくも暖かな余韻が残る、国木田独歩「置土産」。
- 日本文学
掲載日: 2022年10月07日
「置土産」は、1900年(明治33年)に、文芸誌「太陽」に発表された小説。
国木田独歩が、自然主義文学の先駆者として評価され始めたころの作品です。
市井の人々の人生をあるがままに描いています。
時は明治中頃。
働き者の油売りの吉次は、軍夫となって彼の地に渡りひと稼ぎしようと考える。
何かにつけ親切にしてくれる茶店の娘に
置土産として、何も告げずに櫛を置いていく。
「軍夫を思い立ちてより何事も心に染まず、ひとりで二日三日商売もやめて考えた末、いよいよ明日の朝早く広島へ向けて立つに決めはしたものの
まるっきり黙ってゆく訳にゆかず、今宵こそお絹お常にもあらまし話して止めても止まらぬ覚悟を見せん。
運悪く流れ弾にあたるか病気にでもなるならば帰らぬ旅の見納めと
悲しいことまで考えて、せめてもの置土産にといろいろ工夫したあげく櫛二枚を買い求め懐にして来た」
内気だが気のいい吉次の所作が
とても悲しい・・・。
国木田独歩の浪漫溢れるお話は、悲しくも暖かな余韻が残る。
読書会の課題本として
皆さんで読んで感想を言い合うにのにはとてもいい話でした。