太宰治「猿ヶ島」は、まるで星新一作品のように読みやすくてシニカルな小説。
- 日本文学
掲載日: 2022年11月05日
「猿ヶ島」は、昭和10年に雑誌「文学界」に発表された不思議な小説。
太宰が26歳の頃の作品です。
最初の短編集「晩年」に収められています。
冒頭のこんな文章で始まります。
「はるばると海を越えて、この島に着いた時の私の憂愁を思い給え」
と、読者に語り掛けています。
では、誰がこれを言っているのか。
初めて読んだ人は、100%想像を大きく裏切られることとなるでしょう。
とても面白い仕掛けがしてある小説です。
「私は岩山の岸に沿うてよろよろと歩いた。あやしい呼び声がときどき聞える。狼であろうか。熊であろうか」
このように不安にかられながらも「私」は島をめぐり歩く。
ほどなくして、仲間を見つけ、落ち着ける場所にたどり着きます。
すると、不思議なことが起こります。
「白いよそおいをした瞳の青い人間たちが、流れるようにぞろぞろ歩いている。まばゆい鳥の羽を頭につけた女もいた」
絶海の孤島と思っていた「私」は驚きを隠せません。
仲間は、あちこちの人間を指さしつつ言います。
「おどろくなよ。毎日こうなのだ」
「見せ物だよ。おれたちの見せ物だよ」
さて、この後の展開が面白い。
太宰治のストーリーテリングのうまさに読者も驚くことになるのです。
読みやすさも、まるで星新一作品のようです。
巻末の解説にはこう記載があります。
「この作品は、文学者の宿命を表現したものであり、
文壇への風刺である」と。
それを踏まえて、この作品を読むと、なるほど、実に滑稽です。
太宰治、26歳。
彼のシニカルな面がより一層顕著に表れた作品です。