JDサリンジャー「最後の休暇の最後の日」は、戦地に赴く若者の優しさを描くことで、戦争の理不尽さを浮かび上がらせる。
- 海外文学
掲載日: 2023年08月22日
「最後の休暇の最後の日」は、1944年、サリンジャーが25歳の時、雑誌「ザ・サタデイ イブニングポスト」に掲載された短編小説です。
ヨーロッパ戦線に従軍中のサリンジャーは、フランスを訪れたヘミングウェイの元へ訪ねていきました。
その際に、「最後の休暇の最後の日」を読んだヘミングウェイから、サリンジャーは才能を絶賛されました。
この作品の主人公は、休暇で実家を訪れた従軍中の青年、ベイブ。
明日は軍へ戻るという最後の一日を描いています。
サリンジャーの小説の登場人物の名前は、作品意図を読み取るヒントが隠されています。
この作品の主人公の名は「ベイブ」。
赤ちゃん、つまりみんなから愛されている青年です。
その名にたがわず、母親や、妹をいつくしむ様子が描かれていきます。
彼の実家のある街、ニューヨーク州ヴァルドスタは雪で覆われています。
サリンジャーの文章が素晴らしい。
「窓の外を見てみろ」と言いたくなる白さ。「深呼吸してみろよ」と言いたくなる白さ。「本なんか放り投げて、出てこい」と言いたくなる白さ。
「最後の休暇の最後の日」(新潮社)
ベイブは、妹マティを迎えに行き、そり遊びをしようとします。
実は、昨年、近所の子供が、そり遊びをしていて死んだのです。マティは怖がっています。
ベイブにしがみついてぶるぶる震えながらもそりに乗るマティ。
ベイブと遊びたい一心のマティのけなげな様子が、描かれています。
明日、一緒に軍へ戻る友人、ヴィンセント・コールフィールドがやってきて、家の中が更に暖かさに包まれていきます。
ヴィンセントには弟がいて、あちこちの学校を退学になっているそうです。
弟の名は、ホールデン・コールフィールド。「ライ麦畑で捕まえて」のホールデンです。
二人の会話から、ホールデンが辿る運命がわかってきます。
最後の夜、ベイブはこの街で過ごしたことに思いを馳せます。
これが生まれ育った町だ。ここで少年時代を過ごした。マティもここで成長していく。ここで、母さんがピアノを弾いていた。(以下略)
「最後の休暇の最後の日」(新潮社)
このベイブの独白が、すべてを物語ります。きっと、あなたは涙することでしょう。