岡本かの子「金魚繚乱」は、実に緻密に構築された作品です。
- 日本文学
掲載日: 2022年11月28日
「金魚繚乱」は1937年に発表された中編小説。
岡本かの子の作品でよくみられるモチーフは、何かに取り憑かれ、それを受け入れていく人間の業。
「金魚繚乱」は、まさに、その代表格のような作品です。
岡本かの子は、川端康成に師事していた影響もあり、「金魚繚乱」は川端康成の作風に非常によく似ています。
いわゆる新感覚派と言われる作風で、直接的な描写はせずに情景描写などで意図を伝えていく、とても高度な作品です。
ですので、すべての文章に意味があると考え、読み飛ばすことなく
じっくり読んでいく必要があります。
時は、大正。
金魚やの跡取り息子、「復一」と、崖の上の邸宅に棲む実業家の娘「真佐子」との恋愛模様を主軸に、次第に美しい金魚を作り出すことに取りつかれていく復一の心模様を描いています。
「繚乱」は、「咲き乱れること」。
金魚が咲き乱れる、とは、いったいどんなことなのでしょう。
子供の頃の二人。
復一は、子供の頃、あまり目立たない少女だった真佐子を苛めます。
それも人格を否定するように蔑むような苛めです。
復一が上で、真佐子が下になっています。
実際の階級は、「谷窪に暮らす復一、崖の上に暮らす真佐子」という位置関係が示すように、二人の上下関係は明確です。
真佐子が階級は上で、復一が下です。
はたして、ある出来事がきっかけで二人の上下関係は、正しい位置関係に収まります。
「ちっと女らしくなれ」を真佐子の背中に向って吐きかけた。すると、真佐子は思いがけなく、くるりと向き直って、再び復一と睨み合った。少女の泣顔の中から狡るそうな笑顔が無花果の先のように肉色に笑み破れた。
「女らしくなれってどうすればいいのよ」
復一が、おやと思うとたんに少女の袂の中から出た拳がぱっと開いて、復一はたちまち桜の花びらの狼藉を満面に冠った。少し飛び退って、「こうすればいいの!」少女はきくきく笑いながら逃げ去った。
これ以降、復一は、卑屈になっていくのです。
別々な道を歩み出す二人。
やがて、復一は金魚の改良方法を学ぶために関西の水産研究所へ行くこととなります。
別れが迫る折に、真佐子が言います。
「どう、お別れに、銀座へでも行ってお茶を飲みません?」
真佐子は、復一に好意を持っているのです。
けれども卑屈になっている復一は、何も行動を起こさぬまま、関西へ行ってしまいます。
関西へ行った復一は、地元の漁師の娘、秀江と関係を持つようになります。
ここで、面白い対比があります。
この作品が書かれた当時では、男と女の恋愛事情は今とは大きく異なります。
上流階級に属する真佐子には、自由な恋愛は許されていません。
一方、地方の漁師の娘である秀江は、自由です。
自由奔放に復一に迫っていくのです。
やがて、真佐子は、結婚をする旨を復一に伝えます。
これを機に、復一は、「この世に存在しなかった美麗な金魚を創る」ことに
命懸けで取り組むようになるのです。
読んでいると、金魚に、真佐子の姿を重ねているようにしか見えないです。
以降、復一は、10年以上の年月をかけて、地道な交配を繰り返していきます。
「復一」という名前をよくよく見てみると、「復」は、反復、すなわち繰り返すこと、です(;^_^A
さて、この後、復一は、まさに金魚に取りつかれたようになっていきます。
まさに「金魚繚乱」です。
この作品は、読書会の課題本になっていて、いろんな方の感想を聞くことができました。
色んな解釈ができるのも名作の特徴です。