不思議な読書体験が味わえる、小川洋子著「人質の朗読会」
- 日本文学
掲載日: 2020年08月25日
決して、波乱万丈の人生ではなくても
誰かに話して聞かせたい「大切な思い出」が誰しもあるのではないでしょうか?
ここには、そんな思い出が8話収められています。
思い出の持ち主は、
塾講師であったり、専業主婦であったり
歯科助手であったり、インテリアコーディネータであったり・・・。
市井に暮らす、ごく普通の人々です。
ただ、この8人には、一つの共通点があります。
ある旅行会社が企画した南米のある国への団体旅行。
そのツアー先で、観光客と添乗員が乗ったマイクロバスが反政府ゲリラに襲撃され全員が拉致されてしまいます。
やむなく警察の特殊部隊がアジトに強行突入し、犯人グループが全員死亡。
犯人が仕掛けていたダイナマイトにより、人質全員が死亡してしまいます。
人質になっていたのが、この8人なのです。
つまり、「思い出」の語り手は、すでに亡くなっています。
このことを踏まえて読み進めていくと、
一話読み終えるたびに、とても感慨深いものが、こみ上げてきます。
一話一話おろそかにはできないという不思議な感情が芽生えてきます。
初めて味わう、不思議な読書体験でした。
そして、彼らの体験した「思い出」が、将来どんな職業を選ぶのかに
大きく「影響している」のも興味深いのです。