谷崎潤一郎 「秘密」に、きっと明治の人々は酔いしれたことでしょう。
- 日本文学
掲載日: 2023年01月06日
「秘密」は、1911年(明治44年)11月、『中央公論』に掲載された作品。
自然主義文学を読まされて辟易していた明治の人々は、気絶するぐらい酔いしれそうな耽美的な小説です。
この物語の主人公「私」は、隠れ家を捜し求め、浅草の真言宗の寺の一と間を借り受けます。
隠遁をした目的は、
賑かな世間から逃れ、秘密にすることで、ミステリアスな、ロマンチックな色彩を自分の生活に賦与することが出来ると思ったからだというのです。
「私」は、魔術、催眠術、探偵小説、解剖学など奇怪な書物を部屋中へ置き散らして手あたり次第に耽読します。
そして、夜な夜な、寺の者が寝静まってから散歩に出かけるのです。
或る晩、古着屋で、藍地に大小あられの小紋を散らした着物が眼に附いてから、急にそれが着てみたくてたまらなくなるのです。
ここから先は、女装する様子が何とも淫靡な文章で描かれていきます。
「濃い白い粘液を平手で顔中へ万遍なく押し拡げると、思ったよりものりが好く、甘い匂いのひやひやとした露が、毛孔へ沁み入る皮膚のよろこびは、格別であった。」
そして、「女に擬態した」私は、夜ごと街を徘徊するようになり、
女の私を見る人々様子を観察するのです。
ここから、思いもよらない展開になっていきますので
ぜひ、原文をお読みください。倒錯した世界が堪能できます。