戦争の無常感がわかる、島尾敏雄 著「魚雷艇学生」
- 日本文学
掲載日: 2019年08月24日
この作品は、8月に別府の鉄輪で行われた読書会の課題図書として読了しました。
ここでいう「魚雷艇」とは何か。
魚雷を発射する船ではありません。
「魚雷」そのものです。
つまり、乗り込んだ者が、自ら「魚雷」となって、敵艦に体当たりするという特攻兵器です。
作者は、第二次世界大戦の折、海軍兵科予備学生として呉海兵団に入隊し
その後、自ら志願する形で、第一期魚雷艇学生となり、奄美群島の基地に赴き、特攻出撃をつ・・・という体験をしています。
本作品は、作者が、実際に体験してきたことを詳細に記した私小説。
したがって、主人公は、「私」島尾敏雄氏本人です。
自らの体験を日記を綴るかのように淡々と描いているので、ドラマチックな展開はありません。
また、セリフも一切ないので、読みにくい作品でした。
ただ、一か所、驚くべきことがあります。
魚雷艇学生として、訓練を受け、特攻要員としての覚悟が固まった「私」は特攻基地に赴きます。
そして、ついに自分の命を終焉に導く「魚雷艇」を目にする場面です。
曰く・・・
「私」には期待の像が描かれていた。
上質の鋼鉄で覆われ、常に輝くばかりに磨き上げられているに違いない。
しかし、私が見たものは、薄汚れたベニヤ板張りの小さなモーターボートでしかなかった。
緑色のペンキも褪せ、甲板の薄い板は夏の日照りで既に反りかかった部分も出ていた。
こんな子供のおもちゃのような兵器をあてがわれ
しかし、それを受け入れていく・・・。
作者が吐露する心情には、心が痛みます。
国家というものは、指導者如何では、かくも国民を愚弄するものなのか・・・。
戦後50年たった今でも、それは、何ら変わっていないような気がします。
この読書会では、毎回、課題本をモチーフにした食事が供されます。
今回ばかりは、まったく予想できません(^◇^;)
マスター曰く、
特攻士官として過ごす主人公の暗澹たる心情をイカ墨リゾットで表現したとのこと。
そしてこの下には、なんと「アンコウ」の切り身があります。
このアンコウは、魂を表しているのでしょうか。
それにしても、
別府でアンコウが食せるとは露にも思いませんでした(^◇^;)