川端康成「夜のさいころ」が描く、旅の一座の爽やかな恋愛模様が素晴らしい。
- 日本文学
掲載日: 2023年01月19日
「夜のさいころ」は、1940年(昭和15年)、雑誌『婦人公論』に発表された短編、
円熟期を迎えた40歳の頃の作品です。
旅回りの一座の裏方、水田は、踊り子のみち子が
いつもさいころを振って遊んでいることに気が付く。
みち子がサイコロを振るのを見ていた水田は言います。
「何か占ってくれよ」
「何を占うの?」
「何でもいいさ」
「そんなの・・・。なにかおっしゃれば、占ってあげてよ」
「そうだね。1が出たら、みち子と恋愛しようか」
真剣な表情でサイコロを振るみち子。
それを見ている水田も胸が熱くなるのです。
さぁ、サイコロは何が出るか・・・
とても爽やかな二人ですが、この後の展開、会話がまたいいのです
この作品は、「愛する人達」と題された連作短編の一編、
まさにそんな二人の爽やかで心温まる交流が描かれています。
川端作品にしては珍しく、寂寥感がないのです。
掲載紙の読者層をきちんと考えて作られた作品なのでしょう。
そして、掲載された時期は、まさに開戦まじかの頃。
けれども、きな臭い空気など意に介さないかのような平和で心温まる作品です。