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夏目漱石「夢十夜-第八夜」(床屋で髪を切ってもらう話)は、西洋化によって廃れゆく伝統文化の悲哀を描く-朗読14

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(床屋で髪を切ってもらう話)は、西洋化によって廃れゆく伝統文化の悲哀を描く-朗読14

掲載日: 2023年03月05日

「夢十夜」とは。

「夢十夜」は、1908年(明治41年)に『朝日新聞』に連載された、10話からなる連作短編小説。
不思議な「夢」を語る幻想的な作品です。
朗読にピッタリの長さの作品です(;^_^A
リアルな「作り物」を旨としている漱石らしく、実に不思議なお話。
そして、ただの空々しい幻想的な物語ではなく、生き生きとしたリアリズムにあふれています。
今回お届けする朗読は、夏目漱石「夢十夜」の第八夜
見知らぬ床屋で髪を切ってもらう男が遭遇した、不思議な出来事が描かれています。

「夢十夜-第八夜」を解説します。

明治の世の中は、急速な西洋化が進められています。それを苦々しく思う漱石
そんな状況で見た夢、ということを踏まえると、この作品の意図が見えてきます。
では、冒頭から読んでいきましょう。

床屋の敷居を跨(また)いだら、白い着物を着てかたまっていた三四人が、一度にいらっしゃいと云った。

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(青空文庫)

床屋に入ってみると、白い着物(=西洋人)の人がいる。
この光景は、まるで明治の日本人がそれまで結っていた日本式の髪型を西洋式の髪型に変えることを想起するかのようです。

外を見ると、正太郎が女を連れて歩いているのが見えます。

庄太郎が女を連れて通る。庄太郎はいつの間にかパナマの帽子を買って被(かぶ)っている。女もいつの間に拵(こし)らえたものやら。ちょっと解らない。双方とも得意のようであった。

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(青空文庫)

パナマ帽は、西洋から持ち込まれたもので、まさに西洋化の象徴です。
正太郎はパナマ帽を被って得意げに歩いているわけです。
豆腐屋もいる。芸者も歩いている。

豆腐屋が喇叭(らっぱ)を吹いて通った。喇叭を口へあてがっているんで、頬ぺたが
蜂に螫さされたように膨れていた。膨れたまんまで通り越したものだから、気がかりでたまらない。生涯蜂に螫(さ)されているように思う。
芸者が出た。まだ御化粧(おつくり)をしていない。島田の根が緩んで、
何だか頭に締りがない。顔も寝ぼけている。色沢(つや)が気の毒なほど悪い。それで御辞儀(おじぎ)をして、どうも何とかですと云ったが、相手はどうしても鏡の中へ出て来ない。

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(青空文庫)

豆腐屋も芸者も表を歩いています。が、どうにもパッとしない様子です。
日本独自のものがどうも分が悪いようです。

しかも、誰も鏡に映らない

そうこうするうちに、散髪が始まるようです。

白い着物を着た大きな男が、自分の後へ来て、鋏(はさみ)と櫛(くし)を持って自分の頭を眺め出した。自分は薄い髭を捩(ひね)って、どうだろう物になるだろうかと尋ねた。白い男は、何も云わずに、手に持った琥珀色の櫛(くし)で軽く自分の頭を叩いた。「さあ、頭もだが、どうだろう、物になるだろうか」と自分は白い男に聞いた。白い男はやはり何も答えずに、ちゃきちゃきと鋏(はさみ)を鳴らし始めた。

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(青空文庫)

新たな髪型への不安が描かれています。そんな不安な気持ちをまるで無視して散髪が進みます。急激な西洋化を示唆しているかのように。

鏡に映る影を一つ残らず見るつもりで眼をみはっていたが、鋏(はさみ)の鳴るたんびに黒い毛が飛んで来るので、恐ろしくなって、やがて眼を閉じた。

夏目漱石「夢十夜-第八夜」(青空文庫)

誰かが「あぶねぇ」と声を上げる。
外で自転車と人力車が見えているが、
白い着物の男から頭をぐいと横に動かされたので見えなくなってしまう。

何とも不思議な物語です。

西洋化にひた走る明治の日本を苦々しく思っていた漱石。
そんな漱石を念頭に読み解いていくと
なんとなく、漱石の意図するところが伝わってくるような気がします。

床屋にいる白い着物の人は、西洋人なのでしょうか。
外を歩いている人々は日本文化のことかもしれません。
鏡に映らないということは、もう無きものとしようとされているのでしょうか。

西洋から来た自転車、日本古来の人力車
「あぶねぇ」と言うことは、ぶつかりそうになっていたのでしょう。
でもそれを見せないようにされてしまうのです。

抽象的な表現が多いので、いろんな解釈ができそうです。
読書会などでぜひ、皆さんの解釈を聞かせていただきたいですねぇ。

そんな不思議な物語を朗読と映像で表現してみました。

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