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謎に満ちた夏目漱石『夢十夜-第五夜』を読み解くヒントを解説|なぜ敗軍の将は女を待ち続けているのか。

謎に満ちた夏目漱石『夢十夜-第五夜』を読み解くヒントを解説|なぜ敗軍の将は女を待ち続けているのか。

掲載日: 2026年05月02日

夢十夜』とは。

「夢十夜」は、1908年(明治41年)に『朝日新聞』に連載された連作短編小説。
 10話からなる、不思議な「夢」を語る幻想的な作品です。
作家の人生をありのままに描く「自然主義文学」とは異なり、 リアルな「作り物」を旨としている漱石らしく、実に不思議なお話。
そして、ただの空々しい幻想的な物語ではなく、生き生きとしたリアリズムにあふれています。

『夢十夜-第五夜』のあらすじ。

神代の昔のこと。敵の大将の前に引き据えられた敗軍の将が、処刑される前に愛する女に会いたい、女が来るまで、今少し待ってほしいと懇願する。夜が明けて鶏が泣くまで待ってやると言う。果たして女は来るのであろうか・・・。

『夢十夜-第五夜』を解説します。

冒頭で敵の大将の様子が書かれています。

その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髯をやしていた。革の帯をめて、それへ棒のようなつるぎを釣るしていた。弓は藤蔓ふじづるの太いのをそのまま用いたように見えた。うるしも塗ってなければみがきもかけてない。きわめて素樸そぼくなものであった。

「夢十夜」(青空文庫)

一方、敗軍の将である自分の様子はと言うと、

自分はとりこだから、腰をかける訳に行かない。草の上に胡坐あぐらをかいていた。

「夢十夜」(青空文庫)

決して抗うことのできない様子が描かれています。
抗うことのできない存在。これは、漱石にとってどんなものなのでしょうか。
決して抗うことのできない明治政府であり、世間の耳目が、あてはまるような気がします。

敵の大将は、言います。

大将は篝火かがりびで自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。これはその頃の習慣で、捕虜とりこにはだれでも一応はこう聞いたものである。生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服くっぷくしないと云う事になる。自分は一言ひとこと死ぬと答えた。

「夢十夜」(青空文庫)

自分の運命は自分で決めろと言われています。
個人主義を貫くのかどうかです。漱石は、ここで即答しています。
個人主義で行く、と。

さらに敗軍の将はこう言います。

その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女にいたいと云った。大将は夜が開けてとりが鳴くまでなら待つと云った。鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。

「夢十夜」(青空文庫)

ところが・・・、

女は細い足でしきりなしに馬の腹をっている。馬はひづめの音が宙で鳴るほど早く飛んで来る。女の髪は吹流しのようにやみの中に尾をいた。それでもまだかがりのある所まで来られない。
 すると真闇まっくらな道のはたで、たちまちこけこっこうという鶏の声がした。女は身を空様そらざまに、両手に握った手綱たづなをうんとひかえた。馬は前足のひづめを堅い岩の上に発矢はっしきざみ込んだ。
 こけこっこうとにわとりがまた一声ひとこえ鳴いた。
 女はあっと云って、めた手綱を一度にゆるめた。馬は諸膝もろひざを折る。乗った人と共に真向まともへ前へのめった。岩の下は深いふちであった。
 蹄のあとはいまだに岩の上に残っている。鶏の鳴く真似まねをしたものは天探女あまのじゃくである。この蹄のあとの岩に刻みつけられている間、天探女は自分のかたきである。

「夢十夜」(青空文庫)

果たして、女は会いにやってくるのだが、結局望は叶わなかったのです。
漱石は、生涯一人の女性と添い遂げ、文豪にしては珍しく、他の女性とのスキャンダルらしきものは皆無です。
天探女という、世間の耳目が邪魔をしたという解釈はどうでしょう。
「草枕」には、世間の耳目を「探偵」と呼び、辟易した様子が描かれています。


この物語は、いろんな解釈ができます。
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