謎に満ちた夏目漱石『夢十夜-第四夜』を読み解くヒントを解説|なぜ爺さんの顔には皴がないのだろうか。
- 日本文学
掲載日: 2026年04月30日
『夢十夜』とは。
「夢十夜」は、1908年(明治41年)に『朝日新聞』に連載された連作短編小説。
10話からなる、不思議な「夢」を語る幻想的な作品です。
作家の人生をありのままに描く「自然主義文学」とは異なり、 リアルな「作り物」を旨としている漱石らしく、実に不思議なお話。
そして、ただの空々しい幻想的な物語ではなく、生き生きとしたリアリズムにあふれています。
『夢十夜』第四夜のあらすじ。
一人の老人が店で酒を飲んでいる。飲み終わると川へ向かう。
寄ってきた子供の前で手拭いを蛇にして見せるという。いったいこの老人は何者だろう・・・。

『夢十夜』第四夜を解説します。
第四夜の物語は、とても不思議な話です。
ひとりの老人が酒を飲んでいる。
「家はどこかね」と聞かれると、「臍(へそ)の奥だよ」と答える。
そのうち表へ出ると、手拭いを取り出して、
「今に手拭いが蛇になるから、見ておろう。見ておろう」と触れ回る。
けれども手拭いはいっこうに動かない。
これは、何かの寓話なのでしょうか?
一回読んだだけでは、何のことやらわからないのですが
よく読むと、ヒントがちりばめられているようです。
一緒に読み込んでいきましょう。
まずは、冒頭。こんな文章で始まります。
広い土間の真中に涼み台のようなものを据
えて、その周囲
に小さい床几
が並べてある。台は黒光りに光っている。片隅
には四角な膳
を前に置いて爺
さんが一人で酒を飲んでいる。肴
は煮しめらしい。
夏目漱石『夢十夜-第四夜』(青空文庫)
どんな舞台で物語が始まるのかがわかりましたね。
続けて、爺さんの様子が語られます。
顔中つやつやして皺
と云うほどのものはどこにも見当らない。ただ白い髯
をありたけ生
やしているから年寄
と云う事だけはわかる。自分は子供ながら、この爺さんの年はいくつなんだろうと思った。
夏目漱石『夢十夜-第四夜』(青空文庫)
ヒント1
「顔中つやつやして皺と云うほどのものはどこにも見当らない」
と描かれているように老人なのに皴がないのです。
そこへ、店のおかみさんがやってきます。
裏の筧から手桶に水を汲んで来た神さんが、前垂で手を拭きながら、
「御爺さんはいくつかね」と聞いた。爺さんは頬張った煮〆を呑み込んで、
「いくつか忘れたよ」と澄ましていた。
夏目漱石『夢十夜-第四夜』(青空文庫)
ヒント2
「おかみさん」ではなく、「神さん」です。

「御爺さんの家はどこかね」と聞いた。爺さんは長い息を途中で切って、
「臍の奥だよ」と云った。
夏目漱石『夢十夜-第四夜』(青空文庫)
ヒント3
「御爺さんの家はどこかね」と聞かれた返事は「臍(へそ)の奥だよ」
ここまでで何となく、爺さんが何者なのかが、うっすらとわかってきませんか?
生まれる前の赤ちゃん?ということです。
これを踏まえて読み進めていくと、面白いことが解ってきます。
神さんは手を細い帯の間に突込んだまま、
「どこへ行くかね」とまた聞いた。すると爺さんが、また茶碗のような大きなもので熱い酒をぐいと飲んで前のような息をふうと吹いて、
「あっちへ行くよ」と云った。
「真直かい」と神さんが聞いた時、ふうと吹いた息が、障子を通り越して柳の下を抜けて、河原の方へ真直に行った。爺さんが表へ出た。
夏目漱石『夢十夜-第四夜』(青空文庫)
熱い酒をぐいと飲んで、爺さんは表へ出ます。
「生れ出た」ということにも思われます。

手拭いを取り出した老人は
「今にその手拭が蛇になるから、見ておろう。見ておろう」と繰り返します。
人は生きていくうえでいろんな経験を積んでいくと言ったことを言っているのでしょうか。

やがて老人は、川にたどり着いて・・・。
つまり、これは、人間の一生を表現しているようです。
生れ出た赤子が、成長して、やがて、年老いて、生涯を終えるまでを描いているのではないでしょうか。
この物語は、いろんな解釈ができます。
読書会で、いろんな方の意見を聞きたいですねぇ。

そんな不思議な物語を朗読と映像で表現してみました。


