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森鴎外「百物語」は、明治時代の日本の閉鎖的なサロンのありようを揶揄しているのだろうか。

森鴎外「百物語」は、明治時代の日本の閉鎖的なサロンのありようを揶揄しているのだろうか。

掲載日: 2024年07月14日

「百物語」は、明治44年に文芸雑誌 「中央公論」 に掲載された短編小説です。

題名からして、怪談めいた物語を想像してしまいますが、そうは問屋が卸しません(;^_^A
では、いったいどんなお話なのかを解説していきましょう。

「百物語」はこんな小説です。

■冒頭には、こんな文章がありす。

勿論もちろん生れて始ての事であったが、これから後もずそんな事は無さそうだから、生涯にただ一度の出来事に出くわしたのだと云って好かろう。それは僕が百物語の催しに行った事である。

森鴎外「百物語」(青空文庫)

この冒頭の一文で、つかみはOKです(;^_^A
なにやら恐ろし気な話が始まる予感がします。

■さらに冒頭に面白い仕掛けがあります。

小説に説明をしてはならないのだそうだが、自惚うぬぼれは誰にもあるもので、この話でも万一ヨオロッパのどの国かのことばに翻訳せられて、世界の文学の仲間入をするような事があった時、余所よその読者に分からないだろうかと、作者は途方もない考を出して、行きなり説明をもってこの小説を書きはじめる。

森鴎外「百物語」(青空文庫)

かくして、「百物語」とは何か、が説明されていきます。
ますます期待が高まるようになっています(;^_^A

■いよいよ、百物語が始まるかと思いきや、そうは問屋が卸しません。
そこから、「百物語」に参加することになった経緯や会場へ向かう船に乗り合わせた人々の様子が延々と描かれていきます。

なぜかって?
鴎外は怪談には興味がないからなんです。 その理由は・・・

百物語と云うものに呼ばれては来たものの、その百物語は過ぎ去った世の遺物である。遺物だと云っても、物はもう亡くなって、只むなしき名が残っているに過ぎない。客観かっかん的には元から幽霊は幽霊であったのだが、昔それに無い内容をき入れて、有りそうにした主観までが、今は消え失せてしまっている。怪談だの百物語だのと云うものの全体が、イブセンの所謂いわゆる幽霊になってしまっている。それだから人を引き附ける力がない。

森鴎外「百物語」(青空文庫)

要は、架空のお話である幽霊噺に、もっともらしいことを書き込んではいるが、内容がそもそも無い。それだから魅力がない、というのでしょうか。

■その百物語の会場に人々も集っています。
人々の交流の様子が微に入りさに入り描かれていきます。
会場に入る際に、女性が二人「こわかったわねぇ」と首を縮めて出てきます。

お酌が二人手を引き合って、「こわかったわねえ」と、首を縮めてささやき合いながら出て来た。僕は「何があるのだい」と云ったが、二人は同時に僕の顔を不遠慮に見て、なんだ、知りもしない奴の癖にとでも云いたそうな、極く愛相のない表情をして、玄関の方へ行ってしまった。

森鴎外「百物語」(青空文庫)

どんな話が聞けるのか、詠み人に期待感が高まってくるうまい展開ですねぇ。
ところが、肝心の百物語はまだ片鱗も現れません・・・(;^_^

■さて、百物語が行われる座敷では、客と交流もせずぼんやりとたたずむ主催者を目にします。

一体あの沈鬱なような態度は何に根ざしているだろう。あの目の血走っているのも、事によったら酒と色とに夜をかした為めではなくて、深い物思に夜をおだやかに眠ることの出来なかった為めではあるまいか。いて推察して見れば、この百物語の催しなんぞも、主人は馬鹿げた事だと云うことを飽くまで知り抜いていて、そこへ寄って来る客の、あるいは酒食をむさぼる念に駆られて来たり、或はまた迷信の霧に理性をとざされていて、こわい物見たさのおさない好奇心に動かされて来たりするのを、あの血糸の通っている、マリショオな、デモニックなようにも見れば見られる目で、ひややかに見ているのではあるまいか。

森鴎外「百物語」(青空文庫)

闊達な交流が行われるドイツでのサロン文化を見てきた鴎外。
一方日本ではどうか。
この作品では、その様子を描いています。

鴎外の落胆を表すかのように、百物語が始まるのも待たずに主人公は早々に会場を後にするのです・・・。。
つまり、百物語自体は全く出てきませんのであしからず(;^_^A

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