田山花袋「少女病」を読むと、男性の本質は昔から寸分も変わっていないことに気が付き愕然とする。
- 日本文学
掲載日: 2024年06月30日
田山花袋「少女病」は、明治40年5月に文芸雑誌 『太陽』 に掲載された短編小説です。
少女を眺めることに無上の喜びを見出す、中年男性の悲惨な運命を描いています。
明治40年は、日本に西洋の自然主義文学が紹介され、日本の文筆家たちは日本独自の自然主義文学に目覚めていく頃のこと。
そんな中、田山花袋は明治40年5月にザ・自然主義文学である「蒲団」を発表します。
ということは、「少女病」の主人公は、少なからず田山花袋自身が投影されているとしてもおかしくはありません。
では、いったいどんなお話なのかを解説していきましょう。
「少女病」は、こんな小説です。
冒頭、主人公がどんな男なのかが描かれます。
彼は、雨の日も風の日も意に会することなく、毎日きっかり同じ時刻に千駄ヶ谷の田んぼ道を歩いていきます。代々木の停留所に通勤のために向かうのです。
沿道の家々の人は、遠くからその姿を見知って、もうあの人が通ったから、あなたお役所が遅くなりますなどと春眠いぎたなき主人を揺り起こす軍人の細君もあるくらいだ。
田山花袋「少女病」青空文庫
それぐらい毎日決まった時刻に歩いているのです。
そんな彼がどんな風体かと言うと、
年のころ三十七、八、猫背で、獅子鼻で、反歯で、色が浅黒くッて、頬髯が煩さそうに顔の半面を蔽って、ちょっと見ると恐ろしい容貌、若い女などは昼間出逢っても気味悪く思うほどだが、それにも似合わず、眼には柔和なやさしいところがあって、絶えず何物をか見て憧れているかのように見えた。
田山花袋「少女病」青空文庫
なかなか、おぞましいものがあります(;^_^A
やがて彼は、一人の女性の後姿に気が付きます。
それを見ると、もうその胸はなんとなくときめいて、そのくせどうのこうのと言うのでもないが、ただ嬉しく、そわそわして、その先へ追い越すのがなんだか惜しいような気がする様子である。男はこの女を既に見知っているので、少なくとも五、六度はその女と同じ電車に乗ったことがある。それどころか、冬の寒い夕暮れ、わざわざ廻り路をしてその女の家を突き留めたことがある。
田山花袋「少女病」青空文庫
かなり危ない雰囲気になってきました(;^_^A
彼はその女性のことに思いを馳せ、代々木の停留所につきます。
電車を待つ間、待合所で別な女性に目を停めます。
肉づきのいい、頬の桃色の、輪郭の丸い、それはかわいい娘だ。はでな縞物に、海老茶の袴をはいて、右手に女持ちの細い蝙蝠傘、左の手に、紫の風呂敷包みを抱えているが、今日はリボンがいつものと違って白いと男はすぐ思った。
田山花袋「少女病」青空文庫
この娘は自分を忘れはすまい、むろん知ってる! と続いて思った。
彼が、なぜ自分のことを知っているはずだと思ったかと言うと、以前落とし物を拾ってあげて、言葉を交わしたことがあるからなのです。
そして彼は妄想を始めます。
男は嬉しくてしかたがない。愉快でたまらない。これであの娘、己の顔を見覚えたナ……と思う。これから電車で邂逅しても、あの人が私の留針を拾ってくれた人だと思うに相違ない。もし己が年が若くって、娘が今少し別嬪で、それでこういう幕を演ずると、おもしろい小説ができるんだなどと、とりとめもないことを種々に考える。聯想は聯想を生んで、その身のいたずらに青年時代を浪費してしまったことや、恋人で娶った細君の老いてしまったことや、子供の多いことや、自分の生活の荒涼としていることや、時勢におくれて将来に発達の見込みのないことや、いろいろなことが乱れた糸のように縺れ合って、こんがらがって、ほとんど際限がない。
田山花袋「少女病」青空文庫
どうやらその男は売れない小説家であり、生活のため雑誌社に勤めている編集者であることがわかってきます。
田山花袋そのものではないですか(;^_^A
さて、この男冴えない編集者をしているのはなぜか。
ちゃんとした理由があるのです。
けれどこうなったのには原因がある。この男は昔からそうだが、どうも若い女に憧れるという悪い癖がある。若い美しい女を見ると、平生は割合に鋭い観察眼もすっかり権威を失ってしまう。若い時分、盛んにいわゆる少女小説を書いて、一時はずいぶん青年を魅せしめたものだが、観察も思想もないあくがれ小説がそういつまで人に飽きられずにいることができよう。ついにはこの男と少女ということが文壇の笑い草の種となって、書く小説も文章も皆笑い声の中に没却されてしまった。
田山花袋「少女病」青空文庫
その後もこの男の少女へのあくなき観察の様子が描かれていきます。
そして、想像を遥かに超えた悲惨な結末が待っているのです。
この作品は文庫化されていないのですが、青空文庫で無料で読めます。
是非読んで、壮絶な結末を味わってみてください。
が、それにしても、このタイトル(;^_^A
机の上にこれがポンと乗っているのをかみさんが目にしたら、間違いなくボクは変態扱いされることでしょう。
ボクはハタと思いました。
いま巷に溢れているアニメは女子高生ものがやたら多い。
田山花袋は、時代を超えて生き続けているのです。
しかも進化し、増殖してます(;^_^A