谷崎潤一郎「刺青」には、谷崎が生涯をかけて追い求めるテーマが見てとれる。
- 日本文学
掲載日: 2022年12月31日
「刺青」は、1910年(明治43年)に同人誌『新思潮』に掲載された作品。
谷崎潤一郎、24歳の作品にして、処女作にあたります。
そのころの谷崎は、江戸文化へのあこがれが強く、粋でいなせな江戸の庶民を描いていました。
主人公は、清吉と云う若いが、腕のいい刺青(ほりもの)師。
彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事であった。
で、彼の望むとおりの美女に出会うことになります。
嫌がる女性を麻睡剤で眠らせ、果たして精魂を籠めた刺青を彫り込む。
その結果、どんなことが起こるのか。
谷崎ならではの結末が待っているのです(;^_^A
特筆すべきは、冒頭の文章。
ここに、谷崎が生涯追い求めるすべてがあります。
「其れはまだ人々が「愚(おろか)」と云う貴い徳を持って居て、
世の中が今のように激しく軋きしみ合わない時分であった。
すべて美しい者は強者であり、醜い者は弱者であった。
誰も彼も挙って美しからんと努めた揚句は、天稟の体へ絵の具を注ぎ込む迄になった。
芳烈な、或は絢爛な、線と色とが其の頃の人々の肌に躍った。」