森鴎外の小説「杯」は、何を示唆しているのだろうか。
- 日本文学
掲載日: 2022年07月16日
「自然」の二文字が刻まれた銀の杯を持つ日本の娘たち。
そこに突然現れる、異国の娘。
彼女は、まったく別の素材でできたみすぼらしい杯を持っています。
日本の娘たちは憐れむように言う。
「こんな物じゃあ飲まれはしないわ」
そして「自然」の銘のある、耀く銀の杯を異国の娘の前に出した。
異国の娘は言う。
「わたくしの杯は大きくはございません。
それでもわたくしはわたくしの杯で戴きます」
明治時代の森鴎外は、フランスの作家エミール・ゾラの提唱する「自然主義文学」を日本に紹介します。
それは、「物事を正確に描く」、いわゆる「自然科学主義」。
ところが、当時の小説家は、「正直に描く」と誤解して受け取ります。
つまり自分の人生を赤裸々に描く「独白」のようなものになっていきます。
それを踏まえると、この不思議なお話の意味するところが、少し判るような気がします。