闇の中を彷徨う体験ができる、服部まゆみ「この闇と光」
- その他
掲載日: 2022年12月22日
「この闇と光」は、1998年に発表された幻想小説。
その年の直木賞と本屋大賞にノミネートされています。
この作品は、時代設定がいつなのか、どこの国の物語なのか、などの状況の説明は一切知らされないままに始まります。
300ページほどのこの作品の中の半分、160ページほどを使って、
幻想的な物語が続きます。
読み進めるうちに、薄皮をはがすように少しづつ状況がわかってきます。
この作品を楽しむための最大の鉄則、
それは先を焦ってはいけないということ。
特に、160ページ以降は絶対に見てはいけません。
どんなに退屈でも我慢して、描かれていることを脳裏に刻み付けていきましょう。
物語は、こんな文章で始まります。
父はよく私を「光の娘」と呼んだ。輝くように美しいと。」
でもダフネは違う。
ダフネから最初に謂われた言葉は「死にたいの?」だった。
どうやら、主人公は少女の様です。
さらに読み続けましょう。
ダフネは言った。
「死にたくなければ静かにおし」
ダフネの顔は知らないが、いつも上から声がする。
ダフネの匂いと共に、声が頭上から降ってきた。
「何かあったら枕の横の輪を引っ張りなさい」
私はおずおずと、右手で空を掻く。
どうやら、この少女は、目が見えないようだということが解ってきました。
時々訪ねてくる父親に症状はダフネのことを告げます。
「ダフネは、レイアが良い子になるように、脅かしただけだろう」
と父親が言います。
彼女は「レイア」という名前なのです。
この目が見えない少女の一人称で、物語が進んでいきます。
読者は、文字で状況をイメージしていくわけですから
まさにこの少女と一緒の状況、目が見えていない状況にあるわけです。
闇の中を手探りで彷徨うのです。
だからこそ、
この小説は、絶対に映画化できない作品なのです。
この作品は、ラジオドラマにピッタリだと思います。
そして、160ページに渡る不思議な物語が終焉を迎え、次のお話が始まります。
そう、目の見えなかった少女の目が開くのです。
では、この少女が今まで見てきたものは何だったか・・。
ここから、ちりばめられていた伏線の回収が始まるのです。
服部まゆみ
1948年、東京都に生まれる。
澁澤龍彦に影響を受けた幻想的な作品を執筆。
残念ながら、2007年、肺がんのため、白玉楼に移られました。
享年58歳です。
巻末の解説で皆川博子さんは 「白玉楼に移られました」と表現しています。
とても幻想的な表現です。
ボクは、甘党なので「しらたまろう」と今日まで思っていました(;^_^A
「はくぎょくろう」なのですね(;^_^A