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宮沢賢治「銀河鉄道の夜」は、誰の心にもある理想郷への旅立ちを描いたファンタジーです。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」は、誰の心にもある理想郷への旅立ちを描いたファンタジーです。

掲載日: 2025年05月30日

あなたは、夜空を見上げたことがありますか?
そこには、星がありますか?

子供の頃、祖母の住む田舎で夜空を見上げていた時のこと。
手を伸ばせば届きそうな星を見ていると、ボクはそこへ行けそうな気がしたことを思い出しました。

この物語の主人公の少年ジョバンニが見上げた夜空には、降り注ぐように満天の星が輝いています。
きっとジョバンニも同じ気持ちだったことでしょう。
そして、それを実現させてしまうのがこの物語なんです。

「銀河鉄道の夜」はこんな作品です。

宮沢賢治の代表作と言ってもいい長編作品です。
あまり読書をしない人ですら、作品名は一度は耳にしたことがあることでしょう。
でも、賢治の生前には発表されてはいません。
没後に原稿が発見され、出版されたのです。

未完成なうえに、いろんな解釈ができそうな文章なので、多くの人が独自解釈をしている作品です。

でも、そんな他人の解釈に惑わされてはイケマセン。
あなたが感じたことが正解なのです。
研究者なんかに気兼ねしないで気軽に読んで、感じたことを自由に語りましょう。

「銀河鉄道の夜」のあらすじ

苦学生と思しき少年ジョバンニ。
そんな彼が、いつしか銀河を走る鉄道の乗客となって親友のカンパネルラと冒険の旅に出ることになるのです。
そこにはいったいどんな出来事が待ち受けているのでしょう・・・。

「銀河鉄道の夜」を解説します。

この作品は、全部で9つの章で構成されています。
順を追って読んでいきましょう。

一、午后の授業

ここでは、ジョバンニを取り巻く生徒たちが描かれます。

この物語の主人公の少年ジョバンニが学校で授業を受けています。
冒頭は先生のこんな質問から始まります。

「ではみなさんは、そういうふうに川だと
われたり、乳の流れたあとだと云われたりしていたこのぼんやりと白いものがほんとうは何かご承知ですか。」先生は、黒板に
つる
した大きな黒い星座の図の、上から下へ白くけぶった銀河帯のようなところを
しながら、みんなに
とい
をかけました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

先生が教えているのは、空にある天の川のこと。
友だちのカンパネルラや、いじめっ子のザネリもいます。

カムパネルラが手をあげました。それから四五人手をあげました。ジョバンニも手をあげようとして、急いでそのままやめました。たしかにあれがみんな星だと、いつか雑誌で読んだのでしたが、このごろはジョバンニはまるで毎日教室でもねむく、本を読むひまも読む本もないので、なんだかどんなこともよくわからないという気持ちがするのでした。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

先生は、一番先に手を挙げたカンパネルラではなく、ジョバンニに答えさせようとします。
カンパネルラは勉強がよくできるので彼に答えさせるよりは、普段あまり手を上げない生徒に答えさせようと思ったのでしょう。
でも、ジョバンニの様子がおかしいです。

ジョバンニは勢よく立ちあがりましたが、立って見るともうはっきりとそれを答えることができないのでした。ザネリが前の席からふりかえって、ジョバンニを見てくすっとわらいました。ジョバンニはもうどぎまぎしてまっ赤になってしまいました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ジョバンニは答えがわかっているのに自信が無くて返事ができません。
困った先生は、カンパネルラにこたえるように言います。
ところが・・・、

するとあんなに元気に手をあげたカムパネルラが、やはりもじもじ立ち上ったままやはり答えができませんでした。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ここまでのみじかいエピソードで、ジョバンニが内気であることや、そんなジョバンニを思いやるカンパネルラの関係性が判るようになっています。

二、活版所

ここでは、ジョバンニが学校が終わった後どのように過ごしているのかが描かれていきます。
授業も終わり、下校の時刻がやってきました。

ジョバンニが学校の門を出るとき、同じ組の七八人は家へ帰らずカムパネルラをまん中にして校庭のすみさくらの木のところに集まっていました。それはこんやの星祭に青いあかりをこしらえて川へ流す烏瓜からすうりを取りに行く相談らしかったのです。
 けれどもジョバンニは手を大きくってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきのえだにあかりをつけたりいろいろ仕度したくをしているのでした。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

今夜は、銀河の祭りがあるようです。皆がその祭に行く準備をしているのに、ジョバンニは帰ってしまいます。
どうしてかというと・・・、

家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは
くつ
をぬいで上りますと、
き当りの大きな
をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの輪転器がばたりばたりとまわり、きれで頭をしばったりラムプシェードをかけたりした人たちが、何か歌うように読んだり数えたりしながらたくさん働いて
りました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ジョバンニは、活版所での仕事があるので、皆と一緒にいることができなかったのです。そして、授業中に眠かった理由もこれで判りました。

三、家

ここでは、ジョバンニの家庭環境が描かれています。
仕事を終えたジョバンニが、帰宅するところから始まります。

ジョバンニがいきおいよく帰って来たのは、ある裏町の小さな家でした。その三つならんだ入口の一番左側には空箱にむらさきいろのケールやアスパラガスが植えてあって小さな二つの窓には日覆ひおおいが下りたままになっていました。
「おっかさん。いま帰ったよ。工合ぐあい悪くなかったの。」ジョバンニは靴をぬぎながら云いました。
「ああ、ジョバンニ、お仕事がひどかったろう。今日はすずしくてね。わたしはずうっと工合がいいよ。」
 ジョバンニは玄関げんかんを上って行きますとジョバンニのお母さんがすぐ入口のへやに白いきれかぶってやすんでいたのでした。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

どうやらお母さんは病の床にあるようです。
では、お父さんはと言うと、

「ねえお母さん。ぼくお父さんはきっと間もなく帰ってくると思うよ。」
「あああたしもそう思う。けれどもおまえはどうしてそう思うの。」
「だって今朝の新聞に今年は北の方の漁は大へんよかったと書いてあったよ。」
「ああだけどねえ、お父さんは漁へ出ていないかもしれない。」

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

どうもお父さんの行方が分からないようです。ジョバンニが、仕事をしなければいけない理由がこれで判ります。

そして、お母さんが楽しみにしていた牛乳が配達されていないので、取りに行くことにしました。

「そうだ。今晩は銀河のお祭だねえ。」
「うん。ぼく牛乳をとりながら見てくるよ。」
「ああ行っておいで。川へははいらないでね。」
「ああぼく岸から見るだけなんだ。一時間で行ってくるよ。」
「もっと遊んでおいで。カムパネルラさんと一緒いっしょなら心配はないから。」

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ジョバンニは、意図せず、お祭りに行くことになって、ちょっとうきうきしているようです。

浮かれているジョバンニの様子を見て、お母さんは言います。

「川へは入らないでね」

宮沢賢治に限らず、色々な小説に「川へ入ってはいけない」という記述が出て着たら要注意です。
川は、あずかり知らぬところへ通ずるもの。
それ故、人々に「あの世」や「死」を想起させるワードです。

四、ケンタウル祭の夜

ここでは、祭りにやって来たジョバンニのこころの揺れ動きが描かれています。
さぁ一体どんな風に動いていくのでしょうか。

ジョバンニは、こんな様子で祭りの会場に向かいます。

坂の下に大きな一つの街燈が、青白く立派に光って立っていました。ジョバンニが、どんどん電燈の方へ下りて行きますと、いままでばけもののように、長くぼんやり、うしろへ引いていたジョバンニのかげぼうしは、だんだんく黒くはっきりなって、足をあげたり手をったり、ジョバンニの横の方へまわって来るのでした。
(ぼくは立派な機関車だ。ここは勾配こうばいだから速いぞ。ぼくはいまその電燈を通りす。そうら、こんどはぼくの影法師はコムパスだ。あんなにくるっとまわって、前の方へ来た。)

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ちょっとはしゃいでいるようです。
が・・・、
いじめっ子のザネリに出くわし、いやなことを言われてしまいます。
モヤモヤした気持ちになるジョバンニ。
そして、

ジョバンニは、せわしくいろいろのことを考えながら、さまざまのあかりや木のえだで、すっかりきれいにかざられた街を通って行きました。時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤いが、くるっくるっとうごいたり、いろいろな宝石が海のような色をした厚い硝子ガラスばんって星のようにゆっくりめぐったり、また向う側から、銅の人馬がゆっくりこっちへまわって来たりするのでした。そのまん中に円い黒い星座早見が青いアスパラガスの葉で飾ってありました。
ジョバンニはわれを忘れて、その星座の図に見入りました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

キラキラした祭の様子にジョバンニは魅了されていきます。
が・・・、

それから
にわ
かにお母さんの牛乳のことを思いだしてジョバンニはその店をはなれました。そしてきゅうくつな上着の
かた
を気にしながらそれでもわざと胸を張って大きく手を振って町を通って行きました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」(青空文庫より)

ジョバンニは、お母さんの牛乳のことをすっかり忘れていたようです。
でも、牛乳屋さんに行っても牛乳はもらえません。
この時のジョバンニの気持ちを考えるといたたまれない気持ちになってきます。
こんな気持ちになったら、皆さんはどっか遠くに行ってしまいたいと思ったりはしないでしょうか?

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