宮沢賢治 「猫の事務所」には、賢治の言い知れぬ悲しみが込められています。-朗読コンテンツ22
- 日本文学
掲載日: 2023年10月24日
「猫の事務所」は雑誌『月曜』の大正15年(1926年)3月号に発表された、賢治の数少ない生前発表童話の一つです。
黒猫の事務長と、書記の4匹の猫たちが働く事務所でのお話です。
書記の1匹の「かま猫」はかまどで寝起きするので体が煤で汚れています。
体が汚いが故に疎んじられるかま猫。
仕事で使う書類を取り上げられたり、ひどいいじめに耐えていきます。
でももう、我慢の限界が来てしまいます・・・。
この作品の発表から遡る事1922年(大正11年)、結核で病臥中の妹トシが死去してます。
その後、1924年(大正13年)4月20日には、死去したトシへの想いを綴った「心象スケツチ 春と修羅」を自費出版で刊行するも、全く売れず、同年12月に「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」を、自費出版するがこれも全く売れませんでした。
そんな境遇にあった賢治の心境はいかばかりだったのでしょうか。
そこを踏まえて「猫の事務所」を読むと、賢治が描きたかったものが見えてきます。
後半では、手酷いいじめの様子が綴られていきます。
いつも来るとすぐ表紙を撫でて見るほど大切な自分の原簿が、自分の机の上からなくなって、向ふ隣り三つの机に分けてあります。
宮沢賢治「猫の事務所」(青空文庫)
仕事で使う書類を取り上げられたのです。
さらには、
ガタン。ピシヤン。
宮沢賢治「猫の事務所」(青空文庫)
虎猫がはひって来ました。
「お早うございます。」
かま猫は立って挨拶しましたが、虎猫は見向きもしません。
挨拶すらしてくれないのです。
必死で耐えるかま猫。
かま猫はもうかなしくて、かなしくて頬のあたりが酸っぱくなり、そこらがきいんと鳴ったりするのをじっとこらへてうつむいて居りました。
宮沢賢治「猫の事務所」(青空文庫)
かま猫はいたたまれなくなってきます。
たうとうひるすぎの一時から、かま猫はしくしく泣きはじめました。
宮沢賢治「猫の事務所」(青空文庫)
そして晩方まで三時間ほど泣いたりやめたりまた泣きだしたりしたのです。
いたたまれなくなって涙を流すかま猫の姿と賢治の心境が重なって見えてきませんか?
それだからこそ、最後のセリフが生まれたのではないでしょうか。
かうして事務所は廃止になりました。
宮沢賢治「猫の事務所」(青空文庫)
ぼくは半分獅子に同感です。
そんな悲しい物語を朗読してみました。