泉鏡花「山吹」は、アナタの想像を遥かに超えた結末が待っています。
- 日本文学
掲載日: 2023年06月03日
「山吹」は、大正12年に雑誌「女性改造」に掲載された二幕ものの戯曲。
谷崎潤一郎も顔負けの耽美な色濃い作品で、歌舞伎や新派の舞台で何度も上演されている傑作です。
物語の、時は現代。
修善寺の山中の、とある飲み屋で人形使いの老人が酒を飲んでいる。
そこへ、年のころ20代半ばの美しい女性が現れる。訳あって家を飛び出してきた子爵夫人です。
夫人は恋焦がれる画家を追ってここまで来たのである。
夫人は、池で死んでいる鯉を指して言う。
「私は、ここに死んで流れています、この鯉の、ほんの死際、一息前と同じ身の上でございます。」
画家に一緒に連れて逃げてくれと懇願するが、すげなく断られてしまう。
絶望した夫人。
人形使いの老人にこう告げる。
「私は何にも世の中に願いはなし、お前さんの望を叶えて上げよう。宝石も沢山ある。お金も持っています――失礼だけれど、お前さんの望むこと一つだけなら、きっと叶えて上げようと思うんだよ。望んでおくれな。お爺さん、叶えさしておくんなさいな。」
人形使いの老人は、
無言のまま睨むがごとく見詰めつつ、しばらくして、路傍に朽ちし稲塚の下の古縄を拾い、ぶらりと提げ、じりじりと寄る。
そして、
ものいわず、皺手をさしのべて、ただ招く。招きつつ、あとじさりに次第に樹立に入る。
ここで第一幕は終了します。
続く第二幕は、アナタの想像を遥かに超えた展開が待っています。
三島由紀夫が、澁澤龍彦との対談でこの作品を評しています。
「当時の作家に比べると、絵空事を書いているようでいて、なにか人間の真相を知っていた人だ」と。
読み終えた後、アナタは、何を感じるでしょうか。
読書会の課題本として取り上げたい作品です。