日本の今、が垣間見える、ジョージ・オーウェル著「1984年」。
- 海外文学
掲載日: 2023年03月28日
「1984年」は、今から70年ほど前、1949年に刊行されたディストピア小説です。
当時の世界から見た「近未来の世界」を描いたSFです。
そこは、「全体主義国家」と化した世界。
こんな世界が描かれています。
・複雑な考えが出来ないように、言語を単純化していく。
・公文書のみならず、新聞、雑誌、書籍、 すべての不都合な文書は、
政府の意向に沿って時々刻々と書き換えられていく・・。
・民衆の恐怖を煽るために、あたかも戦争状態にあることを装うべく時折、ミサイルが発射されたとアラートが出る・・・。
そして、極め付けは、
・民衆には、ゲームや映画などの大量の娯楽を与え、思考停止させてしまう。
何だか、どこかの国で実際に起こっている出来事に見えて仕方ないのですが(^_^;)
今現在の私たちの世界との共通項が、あまりにも多くて、暗澹たる気持ちになる小説なのです(^_^;)
「1984年」は、こんな小説です。
「1984年」は、第一部から第三部までの三部構成となっています。
第一部では、この作品の舞台となっているのはどんな世界か、ということが実に160ページに渡って描かれていき、
第二部では、主人公が出会った女性との恋物語が描かれ、
そして、最後の第三部で、世にも恐ろしい結末が待っているのです。
第一部
物語の主人公はウィントン・スミス。39歳。
彼の仕事は、勤務先の「真理省」で、文章の改ざんを行うこと。
「真理省」は、読んで字のごとく、真実を司る組織。
ただ、その真実というのは、政府の都合の悪い文章を改ざんし、
すべてを政府の方針に合致したものに仕立て上げることを指すのです。
そして、この世界には「法律」が存在しません。
何事も違法ではないのだが政府がその場その場で判断して、逮捕できてしまうのです。
そして、自由に恋愛をすることもできません。
セックスは忌み嫌われる行為として人々は教育されています。
なぜなら、人を愛するという行為は、党への絶対服従の妨げとなるからです。
すべての「愛」は、絶対統治者の「ビッグブラザー」に向けられなくてはならないのです。
独裁政権が、書物を焼き払い文学作品を読めなくする理由の一つがここにあるのでしょう。
そんな暮らしを送るウィントン・スミスは、美しい女性に出会い、恋に落ちてしまうのです・・・。
第二部
その美しい女性の名はジュリア。26歳。
恋に落ちた二人は、党に見つからないように秘密裏に逢瀬を重ねていきます。
見つかると間違いなく、即逮捕です。
そんな二人は、プロールが住むエリアに部屋を借り、束の間のひと時を過ごすことにします。
プロールというのは、人口の8割を占める労働者階級の人々のこと。
プロールは、恋愛もセックスも自由です。
それどころか、大量の娯楽、スポーツ、酒、ギャンブル何でもありです。
彼らは日々の生活に追われ、完全に思考停止しているので、娯楽さえ与えておけば、黙って服従するのです。
そして、彼らに植えつけられるのは「愛国心」。
時折飛来するミサイルで街角が破壊され、彼らに「愛国心」が芽生えるように仕組まれています。
そんな状況の中、ウィントン・スミスは、オブライエンなる人物のもとを訪ねる。
オブライエンは、党幹部にして、党本部へ反旗を翻そうとしている人物。
ウィントン・スミスは、オブライエンの運動に参加する意思を伝えるのです。
そして、ウィントン・スミスは、オブライエンから一冊の本を渡されます。
本のタイトルは「寡頭制集産主義の理論と実践」
そこには党本部の国家運営が事細かに書かれているのです。
ジョージオーウェルは、ここに60ページに渡って全体主義国家が如何にして国民を統治しているかを詳細に書いています。
例えば、こんなことが書かれています。
「階級社会は、貧困と無知を基盤にしないと成立しえない」
つまり、大衆を日々の生活に追われ、学ぶこともしない状況に置くことで政治に関心を持たせないようにする、というのです。
このパートこそ、彼が描きたいものなのではないでしょうか。
ぜひ、ここだけはじっくり読んでください。恐ろしいことが書かれています。
読書会の課題本として「1984年」は何度も取り上げられています。
その度に新たな発見がある作品です。